

藤井昌彦 先生
Doctor
Profession
東北大学加齢医学研究所客員教授
山形厚生病院・仙台富沢病院理事長
Hospitals
山形厚生病院 (Yamagata Kosei Hospital)
仙台富沢病院 (Sendai Tomizawa Hospital)
情動療法
認知症の方のための情動療法の考え方
情動療法は、認知症の方に対する新しいケアのアプローチであり、記憶や判断などの認知機能が低下しても比較的保たれやすい「情動の力」(共感、喜び、思いやりなど)に焦点を当てています。
この考え方は、医学博士・藤井先生らによって提唱されたもので、従来のような認知機能の回復を目指すリハビリ中心のケアから、「情動的な安定と満足」に重点を置いたケアへと視点を転換しています。
その目的は、認知症に伴って現れる行動・心理症状(BPSD)をやわらげ、本人の生活の質(QOL)を高めることにあります。
Key Principles
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感情機能の保持
認知症では記憶や思考といった認知機能は低下しますが、共感や喜びなどの感情的な機能は比較的保たれることが多いです。だからこそ、ケアではこの「情動の力」を大切にし、うまく引き出すことがポイントになります。 -
感覚と芸術による刺激
音楽や美術、特に演劇など、心地よい感覚体験を通してポジティブな感情を呼び起こし、不安や混乱などの否定的な行動を減らす効果が期待されます。 -
演劇的情動療法
この方法では、専門の俳優が朗読や物語の上演を行い、まるで演劇を観るような体験を患者に提供します。研究によれば、このアプローチは前向きな感情反応を高め、BPSD(行動・心理症状)の軽減にもつながるとされています。 -
量子的感情ケアという考え方
藤井先生は、認知症の人々は認知的な制御(自分の感情を頭でコントロールする力)が弱まることで、喜びや安心といったポジティブな感情をより素直に感じやすくなると考えています。この理論では、記憶力や思考力といった認知機能を回復させようとするよりも、良い感情の状態を保つように支援することの方が、より効果的であるとされています。 -
ケアする人の気持ちも大事
認知症の方に関わる家族や介護する人の「気持ち」も、とても大きな影響を与えます。ケアをする人が温かく前向きな気持ちで接することで、本人も安心し、落ち着いて過ごしやすくなります。
Therapeutic Goals
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前向きな感情の増加
患者の感情を否定的な状態から肯定的な状態へと導くことで、興奮、攻撃性などのBPSD(認知症の行動・心理症状)を軽減します。 -
生活の質の向上
認知機能が低下しても、感情的な満足や喜びに焦点を当てることで、心の安定や幸福感を促進します。 -
薬にできるだけ頼らない工夫
抗精神病薬(精神を落ち着かせる薬)に頼りすぎると、つらい感情だけでなく、感情全体を抑えてしまう可能性があります。よって、抗精神病薬よりも非薬物療法はより望ましい選択肢とされています。
Summary Table
項目別まとめ
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焦点:感情機能(共感、喜び、思いやり)に注目します。
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方法: 音楽や芸術などの感覚的刺激、および演劇的なパフォーマンスを用います。
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考え方の土台: 感情機能の保持、そして「量子感情理論」に基づいています。
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期待される効果 : BPSD(認知症の行動・心理症状)の軽減、ポジティブな感情の増加、生活の質(QOL)の向上。
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介護者の役割 : 介護者自身が前向きな感情を持つことで、患者の状態にも良い影響が及びます。
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薬剤について:抗精神病薬の使用を最小限にとどめ、非薬物による感情刺激を優先します。
補足的なエビデンス
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演劇療法や他の感情的な介入は、認知症患者の抑うつ症状や注意力、生活の質を大きく改善することが、複数の研究で示されています。
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質的分析では、感情療法を受けた患者において、他者との交流、笑顔、コミュニケーションの改善が報告されています。
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このアプローチは、個人の興味や認知レベルに合わせて柔軟に適応できるため、幅広い認知症ケアに活用可能です。
まとめ
藤井先生らによって提案された認知症ケアにおける「情動療法」は、残された感情的な力を引き出すことに重点を置いています。音楽や芸術、演劇などの感覚体験を通じて、行動症状の軽減と生活の質の向上を目指すアプローチです。
